言語処理学会ニュースレター

Vol. 26 No. 2 (2019年6月17日発行)

目次

2018年度論文賞の選考について
言語処理学会第25回年次大会(NLP2019)報告
言語処理学会第25回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
言語処理学会第25回通常総会報告
言語処理学会第26回年次大会について

□2018年度論文賞の選考について

論文誌編集委員会


2018年に出版された自然言語処理25巻1号から5号に掲載された論文22編より,賞に相応しい論文を推薦することを目標として,黒橋副編集長を選考委員長,編集委員を選考委員とする編集委員会を編成し,以下の手続きで選考を実施しました.


(1) 候補論文の決定:上記22編の論文のうち,査読点数が5点満点で4点以上の論文および担当編集委員から推薦のあった論文を候補論文とし,計11編の論文を一次投票の対象としました.


(2) 一次投票:28名の選考委員がそれぞれ約2編の論文を読み,10点満点で採点しました.論文はCOI(※)を考慮して割り当てています.一論文あたり5名の委員が審査し,5名の平均点が7.4点以上となった上位5編の論文を選出しました(6位以下は5位との得点差が大きく,ここで切るのが妥当だと判断しました).


(3) 二次投票:黒橋副編集長を選考委員長として,COIのない10名を審査員とする最終選考委員会を編成し,上位5編の論文を対象に,全委員が全論文を読んだうえで,二次投票を行いました.


(4) 最終選考委員会審議:一次投票および二次投票の結果を受けて最終選考委員会で審議し,1編の論文を最優秀論文賞候補,2編を論文賞候補に推薦することを決しました.(最終的に理事会でこの推薦を承認頂き,論文賞を決定しました)


(最優秀論文賞)

著者名: 梶原 智之,小町 守
論文タイトル: 平易なコーパスを用いないテキスト平易化


(論文賞)

著者名: 小田 悠介,Philip Arthur,Graham Neubig,吉野 幸一郎,中村 哲
論文タイトル: 二値符号予測と誤り訂正を用いたニューラル翻訳モデル

著者名: 浅原 正幸
論文タイトル: 名詞句の情報の状態と読み時間について


以上,3編の論文については第25回年次大会で招待論文として講演いただきました.


※COIについて:
選考にあたっては,以下の条件に一つ以上該当する委員は,当該論文の議事に参加せず,審査を実施した.
・著者である
・著者と現在同じ組織に所属している
・著者と過去1年以内に共同で研究している



□言語処理学会第25回年次大会(NLP2019)報告

第25回年次大会委員長 中野 幹生(事業担当理事・HRI-JP)
同 プログラム委員長 佐々木 裕(豊田工業大学)
同 実行委員長    武田 浩一(名古屋大学)


○ 場所・期日

言語処理学会第25回年次大会は,名古屋大学において次のとおり開催されました.

チュートリアル 2019年3月12日(火)
本会議     2019年3月13日(水)-- 15日(金)


○ 参加状況

依然として人工知能ブームは継続しており,今大会も前回に続いて,過去最多の参加者数となりました.前回の983名から大幅に増加し,1,275名の方にご参加頂きました.参加者の内訳は下記のようになります.

事前受付   994名
当日受付   267名
招待者    14名
合計     1275名


○ プログラム概要

■本会議 (3月13日 -- 15日)

一般セッション(口頭発表,ポスター),テーマセッション合わせて398件の発表がありました.発表数の内訳は次の通り(カッコ内はNLP2018の数字)です.口頭発表,ポスター発表ともに前回を上回りましたが,ポスター発表の件数が大きく増加したのが今回の特徴です.発表件数の増加に伴い,パラレル数を前回の5から6に増やしました.

・口頭発表(一般)        132 (160) 件
・口頭発表(テーマセッション)   56 (16) 件
・ポスター発表         210 (156) 件

■テーマセッション

公募により設定された以下の6件のテーマセッション(NLP2018では2件) を開催しました.テーマセッションの件数が増加した要因として,ワークショップをテーマセッションに統合したことがあげられます.(括弧内は発表件数)

・言語教育と言語処理の接点(10件)
・実世界にグラウンドされた言語処理(9件)
・化学分野への言語処理の応用(9件)
・試験問題をベンチマークとする言語処理(11件)
・談話研究と言語処理,人工知能研究の連携に向けて(10件)
・産業翻訳に役立つ自然言語処理技術(7件)

■招待講演

下記の2名の先生をお招きし,招待講演を実施しました.
・春野 雅彦 先生(NICT脳情報通信融合研究センター)
 社会脳科学と自然言語処理

・藤村 宣之 先生(東京大学大学院教育学研究科)
 探究と協同を通じた子どもたちの「深い学び」

■招待論文講演 (3月15日)

会誌「自然言語処理」に発表された論文の中から選出された以下の3件の論文についての発表が行われました.

・平易なコーパスを用いないテキスト平易化
 梶原智之,小町 守
 Vol. 25, No.2, pp.223-249

・名詞句の情報の状態と読み時間について
 浅原正幸
 Vol. 25, No.5, pp.527-554

・二値符号予測と誤り訂正を用いたニューラル翻訳モデル
 小田悠介,Philip Arthur,Graham Neubig,吉野幸一郎,中村 哲
 Vol. 25, No.2, pp.167-200

■チュートリアル (3月12日)

・機械読解の現状と展望/西田京介先生(NTTメディアインテリジェンス研究所)
・言語の創発構成論--言語進化の計算機実験・実験室実験の紹介/橋本 敬 先生(北陸先端科学技術大学院大学)
・知識グラフと分散表現/林克彦先生(大阪大学)
・次世代オブジェクト認識の可能性に向けて/日高昇平先生(北陸先端科学技術大学院大学)

■スポンサーイブニング (3月12日)

スポンサーと参加者との交流を目的として,昨年に続きスポンサーイブニングを実施しました.学生を中心に300人を超える参加があり,スポンサーにも非常に好評でした.

■25周年企画(3月13日)

第25回の開催を記念して.これまでの四半世紀と今後の四半世紀を考えるパネル討論を行いました.それに先立ち、これまでのプログラム委員長経験者および今回のプログラム委員にアンケートを実施しました.

パネル討論では,江原暉将先生,井佐原均先生,黒橋禎夫先生,鶴岡慶雅先生,丸山岳彦先生に,これまでの研究を分析頂くとともに,今後の研究に関する示唆を頂きました.


○ スポンサー

全部で65の企業・団体にスポンサーになって頂きました.内訳は以下の通りです.

 プラチナスポンサー数 26
 ゴールドスポンサー数 21
 シルバースポンサー数 17
 出版社スポンサー数 1

また,いくつかの企業・団体に,懇親会・クリーニング・茶菓の冠スポンサーになって頂きました.スポンサー様のご支援のおかげで,充実した大会になりました.厚く御礼申し上げます.



○ 総括

今回の年次大会は,参加者数,発表件数,スポンサー数共に過去最多となりました.招待講演,チュートリアル,パネル討論などの企画やテーマセッションも好評でした.大きなトラブルもなく,無事に終了することができました.準備運営に携わって頂いた皆様,スポンサーの皆様,ご発表頂いた皆様,ご参加頂いた皆様に心より御礼申し上げます.

今回の年次大会の大方針は,
(1) 出会いの場を作る
(2) 自然言語処理の研究を網羅し,日本独自の研究を増やす
(3) 効率的な運営を行う
の3つでした.

(1)に関しては,参加者数やスポンサー数が多かったことや,できる限り休憩時間を確保したことなどで,出会いが少し増やせたのではないかと思います.ただし,懇親会場のキャパシティの関係で,申し込みを早く締め切らざるを得なかったことは残念です.今後の大会で改善したいと思います.参加者の皆様に有益な出会いがありましたら,望外の喜びです.

(2)に関しては,例年通り自然言語処理に関するあらゆる発表を募集したこと,および,国際学会での流行とは一線を画すようなテーマセッションが企画されたことで,ある程度達成できたのではないかと考えています.

(3)に関しては,会期を4日間にしたこと,スポンサーのチラシを事前にバッグに入れるのをやめる代わりにスポンサーのカラー広告をプログラムに掲載したこと,当日の運営の一部を業者に委託したことなどで,少し運営が効率化できたと思っていますが,大会の規模が大きくなったことから,各委員や大会賞審査委員の負担はあまり減りませんでした.

大会の規模が大きくなっているのは,自然言語処理技術に対する関心が高くなっていることの現れと考えています.これは大変喜ばしいことなのですが,実は,会員の参加者はあまり増えていません.今年の参加者のうち会員は430人(学生会員・賛助会員を含む.スポンサー枠で参加された方は含まない)ですが,同じ名古屋大学で開催された第19回大会では,参加者総数が636人で,うち会員は317人でしたので,会員の参加者数の増加は,非会員の参加者数の増加に比べると少ないことがお分かりかと思います.会員の参加者が増えていない理由の一つに,そもそも本学会の会員数が増えていないことが挙げられます.正会員数は第19回大会の時には781名で,今回大会の時には854名でしたので,約1割しか増えていません.正会員の数よりも大会参加者数が多い学会は非常に稀です.準備・運営に携わる方々は基本的に会員ですので,結果的に会員の負担が増えていることになります.正会員の多い学会では,会費収入から事務局運営費を出すことができ,事務局が年次大会の準備運営を取り仕切ることができるのですが,本学会ではそれは難しい状況です.

年次大会は,商業イベントとは異なり,主として会員間の交流を目的として開催しています.そのため会員の参加費は不課税ですが,非会員の参加費には課税されます.参加して頂いた非会員の方には,もし年次大会に満足して頂けましたら,是非ともご入会頂き,一緒に学会を発展させて下さればと思っています.自然言語処理に興味を持っていらっしゃる方にどうすれば入会して頂けるかは,本学会の大きな課題と考えています.事業担当以外の理事会メンバと連携しながら,次回以降の年次大会の運営を見直していく予定です.



□第25回年次大会優秀賞・若手奨励賞・優秀ポスター賞の選考について

第25回年次大会プログラム委員長  佐々木 裕(豊田工業大学)


言語処理学会年次大会の大会賞には優秀賞と若手奨励賞があります.また,今回試行的に優秀ポスター賞も導入しました.優秀賞は,年次大会において論文の内容が優れていると認められた発表論文に与えられる賞です.また,優秀賞のうち特に優れたものがあれば,最優秀賞として選定されます (言語処理学会年次大会優秀賞規定).同様に若手奨励賞は,年次大会において論文の内容が優れていると認められた発表論文に関して,以下の条件を満たす著者に与えられる賞です (言語処理学会年次大会若手奨励賞規定).


・年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの
・当該論文の筆頭著者であること
・過去に若手奨励賞を受賞していないこと
・ある論文が優秀賞を受賞する場合は,その論文の筆頭著者は若手奨励賞の対象とはならない


今回,「過去に優秀(発表)賞を受賞していないこと」という条件を削除し,30歳までに1度受賞可能な賞と位置づけました.これは,過去に連名で優秀賞を受賞した若手が若手奨励賞の対象にならなくなることを避けるためです.近年の年次大会の場合と同様に,今大会においても大会の開始前に全論文を対象に審査を行い,大会賞を決定し,大会のクロージングにて表彰しました.


大会賞の選考のための内規では,

・優秀賞の中で特に評価の高いものを0件から2件の範囲で最優秀賞とする
・優秀賞は全発表件数の約2%を目安とする

としており,これは変わりませんが,若手奨励賞については,前回から若手研究者をエンカレッジするという目的から,

・最大10件程度を選出する

と内規を改訂しています.


今回の年次大会では398件 (前回 332件,約20%の増加) が優秀賞の対象となる論文であり,優秀賞の授賞件数は全体の2%にあたる7--8件を目安としました.また若手奨励賞の対象となる論文は274件(前回215件; 約27%の増加) でした.


年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考にあたっては,選考委員会を組織し,慎重な議論を重ねた上で選定を行いました.今回,選考委員会は計194名 (前回176名; 約10%の増加) で構成されました.各授賞論文には議論で合意された授賞理由が付記されます.また,責任を明確にするために,最終選考に関わる委員の名前を公開します.ただし,最終的な責任はプログラム委員長の佐々木が負います.


大会賞の選考は,1次選考と最終選考の二段階で行いました.1次選考に先立ち,投稿カテゴリにより全ての論文を5つのグループ (A, B1, B2, C1, C2) に分け,各グループを専門とする選考委員を,各論文に対し5名割り当て,審査を行いました (この過程を1次審査と呼びます).1次審査委員はそれぞれ10件程度の論文を担当し,各論文に対して,総合評価 (5段階),新規性 (5段階),有用性 (5段階),読みやすさ (5段階) で審査しました.この際,優秀賞に推薦する論文については推薦理由を記述するようお願いしました.また,若手奨励賞の対象論文については,同賞に推薦するかについても5段階で審査を行い,同様の推薦理由の記述をお願いしました.


1次選考および最終選考は,1次審査結果を参考に優秀賞と若手奨励賞の選考を個別に実施しました.


また,今回,試行的に大会委員長名により表彰する優秀ポスター賞も実施しました.優秀ポスター賞は,ポスター発表の聴衆の投票により大会会期中に決定する賞であり,投稿論文に対して事前に審査をする大会賞とはベクトルが異なり,参加者の視点で顕著なポスター発表を表彰しようという制度です.大会賞とは独立に選定しますので,大会賞との重複授賞に関する制限も行いません.


優秀ポスター賞は,各ポスター発表時間枠の中で,投票数が最も多かった発表を最優秀ポスター賞とし,2位,3位の発表を優秀ポスター賞として選定しました.投票の対象を「ポスター発表+発表者」とし,ポスター会場で実際に説明をした発表者を対象に表彰するものです.


★ 優秀賞の選考


優秀賞の1次選考では,1次審査の評価点を基準としてリストアップされた25件の論文から合計点が16点以上の論文10件,および15以下の論文の中から3名の委員の投票により選定した5件の計15件を最終選考委員会で審議することとしました.今回の大会では,プログラム委員を中心に事前にプールされた最終選考委員候補の中から利益相反を考慮し,以下の10名からなる優秀賞選考委員会を組織しました.本委員会の委員長は,候補論文の利益相反のないプログラム委員長の佐々木が担当しました.


第25回言語処理学会年次大会優秀賞最終選考委員

佐々木裕(委員長,豊田工業大学)
白井 清昭(北陸先端大)
浅原 正幸(国立国語研)
乾 孝司(筑波大)
今村 賢治(NICT)
大野 誠寛 (東京電機大)
能地 宏(産総研)
橋本 力(Yahoo!)
三浦 康秀(富士ゼロックス)
山田 一郎(NHK)


最終選考では,まず15件の優秀賞候補論文について,利益相反のない各8名が審査し,事前の重み付き投票を行った後,遠隔会議 (10名の委員中7名が出席)を実施しました.そこでの慎重な討議・投票の結果,7件を優秀賞に選定することとし,中でも高い評価を集めた上位2件を最優秀賞に決定することとしました.


■言語処理学会第25回年次大会 最優秀賞 (2件: 発表番号順)


D2-2 深層強化学習を用いた意味依存構造解析は自発的に平易優先戦略を学習する
○栗田修平 (京大), Anders Sogaard (コペンハーゲン大)

本論文は,意味依存構造解析に深層強化学習を用いることで,先行研究を上回る高い解析精度を達成できることを実験により示しています.特に,強化学習により学習されたモデルが,自発的に平易優先戦略を取るように学習しており,解析の難易度が比較的低い隣接単語などから解析を行うことを分析により示している点が高く評価できます.本研究によって提示された分析結果は、日本語含めて様々な言語の解析に影響を与える可能性があることから,最優秀賞にふさわしいと判断しました.


P4-1 Generating Syntactically Diverse Translations with Syntactic Codes
○朱中元, 中山英樹 (東大)

ニューラルネットワークを利用した機械翻訳で複数の翻訳結果を出力する場合,多様な翻訳文の生成が困難であり,同じような文が出力されてしまう傾向がありました.本論文では,学習データのターゲット言語の先頭に品詞タグを付与した形で翻訳モデルを学習する手法を提案し,実験により翻訳品質を維持したまま多様な翻訳結果が出力できることを確認しています.シンプルなアイデアにも関わらず構文構造の異なる複数の出力が可能となる点について高く評価出来ます.さらに,多様な翻訳を生成するタスクだけでなく,様々なスタイルの出力を実現する制約付き言語生成などへの応用も可能と考えられ,今後の発展性も高いと考えらます.論文としての完成度が高く,最優秀賞にふさわしい論文と判断いたしました.


■言語処理学会第25回年次大会 優秀賞 (5件: 論文番号順)


B1-1 回答スタイルを制御可能な生成型機械読解
○西田京介, 斉藤いつみ, 西田光甫 (NTT), 篠田一聡 (東大), 大塚淳史, 浅野久子, 富田準二 (NTT)

本論文は生成型の機械読解に対する新たなモデルを提案し,その有効性を様々な観点から検証しています.生成型機械読解とは,Web上の記事の集合のように質問に対する手がかりとなる文書が複数存在する時に,それらから質問に適した情報を抽出し,一つの回答文として新たに生成を行うものです.本論文では,質問に対する回答には,答えのフレーズだけで十分な場合や完全な文が必要な場合など異なる状況が存在することに着目し,異なる回答スタイルのデータセットが存在する時にそれらから効率的に学習を行うマルチタスク学習の提案を行っています.これにより,既存の研究のデータ不足の問題を軽減し,精度が向上すると共に,一つのモデルで異なる回答スタイルの制御が行えることを示しています.ネットワーク構造の導入や評価も丁寧に行われており,論文の完成度も高く,優秀賞にふさわしい論文であると判断しました.


C4-9 英語ライティング学習支援のための前置詞誤り解説生成
○永田亮 (甲南大/さきがけ)

本論文では,学習者が書いた英語に含まれる前置詞誤りについて,解説文付き学習者コーパスの構築と,誤り検出・解説文提示方式の提案を行っています.従来は,解説文の提示まで行った研究は非常に少ない状況でした.本稿では,BiLSTMに基づく検出と,分散表現の類似度に基づく検索を使うことで,適合率と再現率の高い解説文提示を実現しました.また,本タスクを解くにあたり,1千の学習者文書に対して,解説文の付与を行っており,この分野の今後の発展にも寄与できると考えます.英語ライティング学習支援のみでなく,機械学習結果の説明タスクへの応用など,発展性が高いと期待され,論文としての完成度も高いことから,優秀論文にふさわしいと判断いたしました.


F4-5 構造付き Web テキスト翻訳のための高品質多言語データセット
○橋本和真, Raffaella Buschiazzo, James Bradbury, Teresa Marshall, Richard Socher, Caiming Xiong (Salesforce)

本論文では,構造付きWebテキストを対象とした機械翻訳の課題を提案しています.16言語のオンラインヘルプを対象として,XMLタグを頼りに任意の言語対を翻訳データとして利用可能なデータセットを構築しています.また,データセットに対応した,XML制約付きのビームサーチおよびコピー機構を含むニューラル機械翻訳モデルを提案しています.評価実験により,提案モデルの有効性およびデータセットのドメイン適用の可能性が示されています.提案モデルのコードは公開が予定されており,今後の構造付きWebテキストを対象とした翻訳においてベースラインとなることが期待できます.構造化データを扱った翻訳は産業応用上で有益なテーマであり,公開を予定しているデータセットの有用性も評価できるため,本論文は優秀論文にふさわしいと判断しました.


E5-1 ExpertとImitatorの混合ネットワークによる大規模半教師あり学習
○清野舜, 鈴木潤, 乾健太郎 (東北大/理研AIP)

本論文はスケーラブルな半教師あり学習の新しい手法を提案しています.この手法は Expert と Imitator の2つの混合ネットワークで構成されています.Expert はラベルありデータから学習するニューラルネットワークです.一方,Imitator は入力の一部の特徴を用いて Expert が予測するラベル事後確率を模倣するネットワークであり,ラベルなしデータから学習されます.Expert と Imitator とで独立したネットワークを学習しかつ Imitator として軽量なネットワークを用いることで高速化を実現した点,また異なる特徴を用いた複数の Imitator を学習することで有効な特徴の選択を実現している点に特徴があります.2つの文書分類タスクでの評価実験では,従来の半教師あり機械学習手法に比べてエラー率が有意に改善されたこと,8倍の高速化が実現できたことが示されています.大規模なラベルなしデータが適用可能で性能も優れた新しい半教師あり機械学習手法を提案している点が評価できます.


P8-4 知識グラフ埋め込みのための二値化CP分解
○岸本広輝, 林克彦, 赤井元紀 (阪大), 新保仁 (NAIST), 駒谷和範 (阪大)

本論文は,グラフ埋め込みモデルのメモリ・計算コストを削減するために,古典的なテンソル分解法の一つであるCANDECOMP/PARAFAC 分解を二値化する手法を提案しました.巨大な知識グラフ Freebase 上での関係予測タスクにおいて,分類精度を維持しながらモデル削減を行っており,非常に興味深い結果となっています.実験に基づく検証のみならず,二値化した CP 分解が任意の3次隣接テンソルを表現できることを証明しており,論文としての完成度も高く,優秀賞にふさわしい論文と判断いたしました.



★ 若手奨励賞の選考過程


今回の年次大会では,若手奨励賞の1次選考(最終選考に進む論文の選定)は,前回と同様に,優秀賞の審査とは独立して1次審査の評価結果に基づいて決定することにしました.これは,各論文に対する1次審査員の数を5名とすることで1次審査の評価が安定したと判断したためです. 1次審査の段階で若手奨励賞の対象となる論文については,若手奨励賞に推薦するかどうかを5点満点で評価してもらいました.この5名による評価の合計得点が16点以上の論文21件,および15点以下の論文のうち大会賞担当プログラム委員が審査コメントを精査し選定した4件をあわせた計25件が最終選考対象論文として推薦されましたが,このうち4件は優秀賞に選定されたため,結果的には21件が選考の対象となりました.若手奨励賞最終選考では,候補論文の利益相反を考慮してプログラム委員長の佐々木を委員長とする以下の4名が選考にあたりました.


第25回言語処理学会年次大会若手奨励賞最終選考委員

佐々木 裕 (委員長,豊田工業大学)
白井 清昭(北陸先端大)
林 良彦 (早稲田大学)
中澤 敏明(東大)


まず,21件の候補論文のうち,1次審査の最高点と最低点を除いた3名の合計得点が11点以上の論文7件について審議し,若手奨励賞に選定しました.続いて,残りの14件について4名の重み付き投票を行い,4名全員が投票した論文3件を若手優秀賞に選定しました.最後に,もう1件を投票により選定し,最終的に11件を選定しました.若手奨励賞受賞論文に選定されたのは,下記の11件です.


■言語処理学会第25回年次大会 若手奨励賞 (11件: 論文番号順)


B1-2 実行時機械翻訳による多言語機械読解
浅井明里 (東大)

本論文は機械読解学習データが存在しない言語に対して,英語に翻訳することにより機械読解する手法を提案しています.本手法はまず対象言語から英語に機械翻訳し,英語における機械読解モデルを実行し,機械翻訳時のアライメントを用いて対象言語における回答を抽出しています.提案手法はこれまで行われてこなかった設定で興味深く,また,評価実験では様々な条件での比較を丁寧に行っています.日仏2言語において機械読解評価データを構築し公開している点も高く評価でき,若手奨励賞に値すると判定しました.


F2-2 係り受け木を用いたツリーバンク自動生成によるCCG解析分野適応
吉川将司 (NAIST))

本研究では,コストが高い組合せ範疇文法に基づく句構造木アノテーションを医療テキスト・疑問文・音声会話・数学問題など多様なテキストに付与するために,アノテーションコストの低い Universal Dependencies 係り受け木に基づいた分野適応手法を提案しました.複数のレジスタにおける検証により,本手法の有効性を実証しました.今後の詳細なエラー分析に期待し,若手奨励賞に選定いたしました.


A3-4 単語分散表現のタスク横断写像に基づく高精度多言語モデル
佐久間仁 (東大)

本研究は,リソースプアな言語において,目的タスクに特化した多言語モデルを獲得する手法を提案している.具体的には,既存手法を用いて獲得した多言語単語分散表現を,リソースリッチな原言語側で目的タスクに対してファインチューンし,それをリソースプアな目的言語に言語間転移させる.ここで,単語分散表現には言語間の共通性があることを仮定している.文書分類,評判分析の目的タスクを用いて評価実験を行い,提案手法の有効性を確認している.リソースプアな言語の処理は今後,重要性を増すものであり,本研究成果の展開が期待できるため,若手奨励賞に選定した.


B3-2 クラウドソーシングによる大喜利の面白さの構成要素の分析
中川裕貴 (京大)

面白さを計算機に理解させることは困難ですが,それを達成するための最初のステップとして,本論文は面白さを構成する要素を分析しています.大喜利を題材に,面白さを構成すると予想される6種類の要素を定め,クラウドワーカに大喜利のお題と回答の組を提示して,その面白さならびに6つの構成要素に対する評点の付与を依頼しました.調査結果を分析し,6つの構成要素のうち「新しさ」「わかりやすさ」「関係性」が特にこの順序で面白さと相関が高いことを明らかにしました.さらに,この3つの特徴量を機械的に計量する簡単な方法を試し,その結果から面白さを推定する実験を行いました.実験結果は芳しくないものでしたが,計算機による面白さの理解の難しさを実証していると言えます.面白さの理解というチャレンジングなタスクに取り組み,それを解決するための一つのアプローチを示した点は評価できます.今後の発展も期待できる研究です.


P5-5 言語モデルを用いた日本語の語順評価と基本語順の分析
栗林樹生 (東北大)

本研究は,作為的なかき混ぜ操作により語順に変化を加えた文を言語モデルによりスコア付することにより,従来,言語学的に提唱されてきた,基本的な語順に関する7つの仮説を検証している.その結果,いくつかの仮説についてはその傾向が確認されたが,必ずしも裏付けが得られない仮説(例:動詞によらず基本語順は「にを」である)があることを示している.言語学的な仮説を言語モデルという工学的な枠組みを用いて定量的に検証するという方向性を示した点を評価し,若手奨励賞に選定した.


P5-30 独立発話の繋ぎ合わせによる発話-応答ペアの獲得
赤間怜奈 (東北大/理研AIP)

本論文は,ニューラルネットワークに基づく自由対話システムの学習データに用いることを前提に,高品質な発話-応答文ペアを獲得する方法を提案しています.提案手法では,初期の発話-応答文ペアから,教師無し学習による文字単位のアライメントにより,典型的なフレーズ対(f,e)を「発話-応答テンプレート」として獲得します.次に,単発話コーパスからf,eを含む発話を組み合わせて発話-応答ペアの候補を生成します.最後にfとeの共起の強さやf,eの長さを考慮して発話-応答の繋りの良さを表すスコアを算出し,その上位のペアを獲得します.提案手法により新たにおよそ1万組の発話-応答ペアを獲得し,クラウドソーシングによる人手評価の結果,初期の発話-応答文ペアと同程度に品質の高い対話データであることを確認しました.現時点では初期データと比べて獲得された発話-応答ペアの数は多くはありませんが,今後,大規模かつ高品質な対話データの獲得につながると期待できます.


F6-1 質問-回答対を利用した半教師有り抽出型質問要約
町田和哉 (東工大)

本論文は質問文書の抽出型要約において,質問文書における重要文判定と,質問文書から回答文生成時に計算されるアテンションを組み合わせて重要文を抽出する手法を提案しています.質問文書における重要文判定に回答文生成時のアテンションを利用するという着眼点が興味深く,また,評価実験・分析が適切に行われている点が高く評価でき,若手奨励賞に値すると判定しました.


F6-2 談話構造を考慮する階層的注意機構による抽出型ニューラル単一文書要約
石垣達也 (東工大)

本論文では抽出型要約モデルに談話構造を新たに導入したモデルを提案しています.階層的注意機構を用いることで間接的に文書の構造を捉え,直接的な係り受け関係にある文間だけでなく,幅広い文脈を考慮して各文の重要度を計算することができるモデルになっています.本アイデアには新規性が認められ,また実験によりその有効性も示されており,完成度の高い論文と言えます.具体的な改善例の分析や追加の比較実験の実施などを含めた今後のさらなる発展を期待し,若手奨励賞に選定しました.


P6-11 出力長制御を考慮した見出し生成モデルのための大規模コーパス
人見雄太 (朝日新聞)

本研究では,出力長を統制する必要がある状況下での文書要約・見出し生成において求められている,1,831,812件からなる学習用コーパスと1,524 件からなる評価用コーパスを構築しました.同データを利用して既存のモデルの評価を行い,データセットとしての妥当性の検証をおこないました.まだ論文の表現に改善点がありますが,研究内容の重要性と今後の研究の発展に期待して,若手奨励賞に選定いたしました.


P7-4 擬ユークリッド空間への単語埋め込み
Kim Geewook (京大/理研AIP)

近年,Poincare埋め込みなど非ユークリッド空間への単語の埋め込みにより,階層構造を持つ単語をうまく表現できる手法が注目されている.本論文は,階層構造のリンク予想タスクと単語類似度タスクを対象に,単語の分散表現を擬ユークリッド空間において学習する実験を実施し,従来法に比べて高い性能が得られることを示している点が高く評価できる.擬ユークリッド空間への単語の埋め込み手法は,第2著者が筆頭著者の2018年の論文の理論に基づいていますが,若手奨励賞の受賞に値する十分な内容を含んでいると判断しました..


P7-18 マルチタスク学習を用いたニューラル文内述語項構造解析
大森光 (首都大)

本論文は,日本語述語項構造解析において述語と事態性名詞の項構造解析をマルチタスク学習する手法を提案しています.近年,ニューラルネットワークによる述語項構造解析手法が多く提案されていますが,事態性名詞の解析に注目したものはなく,また,マルチ学習することにより双方の解析精度が向上することを示している点は高く評価できます.今後の発展に期待し,若手奨励賞に値すると判定しました.



★ 優秀ポスター賞の選考


優秀ポスター賞は,インターネット上に開設した投票サイトから,参加登録者が各ポスター発表の時間帯において,ひとり最大5件のポスター発表に対して各1票を投じてもらい,各発表の獲得票数により授賞を決定しました.2重投票等の基準を満たさない投票は除外しています.


この結果,受賞者は下記のように決定しました.同点が複数あった場合は複数授賞としています.


最優秀ポスター賞(7件)

 P2-11 クエリ・出力長を考慮可能な文書要約モデル
 斉藤いつみ (NTT)
 P3-38 Wikidataからの遠距離教師あり学習に基づく大規模関係知識獲得
 松田耕史 (東北大)
 P5-30 独立発話の繋ぎ合わせによる発話-応答ペアの獲得
 赤間怜奈 (東北大/理研AIP)
 P5-30 独立発話の繋ぎ合わせによる発話-応答ペアの獲得
 武藤由依 (東北大)
 P6-11 出力長制御を考慮した見出し生成モデルのための大規模コーパス
 人見雄太 (朝日新聞)
 P7-4 擬ユークリッド空間への単語埋め込み
 Kim Geewook (京大/理研AIP)
 P7-21 教師なし英日ニューラル機械翻訳の検討と文の潜在表現の分析
 米田昌弘 (東大)


優秀ポスター賞(8件)

 P1-1 解説文生成研究のためのライティング技術解説付き学習者コーパス
 永田亮 (甲南大/さきがけ/理研AIP)
 P1-26 ダイレクト広告コピー文の分析と自動生成
 平良裕汰朗 (名大)
 P3-17 文法誤り訂正における反復訂正の効果検証
 浅野広樹 (東北大/理研AIP)
 P4-7 位置エンコーディングを用いた出力長制御
 高瀬翔 (東工大)
 P7-24 対義語対の差分ベクトルを使用した評価極性辞書の拡張
 川島寛乃 (慶應大)
 P7-37 双方向学習と再現学習を統合したニューラル機械翻訳
 森下睦 (NTT)
 P8-8 画像/言語同時埋め込みベクトル空間の構築に向けた 埋め込み粒度の比較検討
 北山晃太郎 (東北大)
 P8-9 Graph-to-Sequenceアプローチによる学術論文のアブストラクト生成
 近藤雅芳 (NAIST)




□言語処理学会 第25回通常総会報告

総務担当理事 駒谷和範(大阪大学)


日時: 2019年3月13日(水) 12:20--13:00
場所: 名古屋大学 IB電子情報館1F IB014講義室
出席者: 代議員31名(内、書面による議決権行使者10名)、理事:15名、監事:1名


議題

■第1号議案 2018年度決算報告
資料「第25回通常総会」に基づき,2018年度の決算報告があり,その内容が承認されました.


■第1号報告 2018年度事業報告
資料「第25回通常総会」に基づき,2018年度の事業内容が報告されました.


■第2号報告 2018年度監査報告
資料「第25回通常総会」に基づき,2018年度の監査の結果,会計監査,業務監査ともに問題のないことが報告されました.


■第3号報告 2019年度事業計画
資料「第25回通常総会」に基づき,2019年度の事業計画が報告されました.


■第4号報告 2019年度予算案
資料「第25回通常総会」に基づき,2019年度の予算案が報告されました.


■第5号報告 2019年度代議員構成
資料「第25回通常総会」に基づき,2019年度の代議員の一覧が報告されました.


配布資料
第25回通常総会 資料:https://www.anlp.jp/doc/gm/gm25_2019.pdf


□第26回年次大会について

言語処理学会第26回年次大会の開催予定は以下の通りです.


□日時: 2020年3月16日--19日
□会場: 茨城大学 水戸キャンパス
大会委員長:     新納 浩幸 (茨城大学)
大会実行委員長:   佐々木 稔 (茨城大学)
大会プログラム委員長:白井 清昭 (JAIST)


詳細が決まりましたら http://www.anlp.jp/ で順次お知らせいたします.



学会に関する問い合わせ先

中西印刷株式会社 言語処理学会事務局
〒602-8048 京都市上京区下立売通小川東入ル
e-mail: nlp (at) nacos.com

ニュースレター担当理事
山本 和英 (長岡技術科学大学)
e-mail: yamamoto (at) jnlp.org