言語処理学会ニュースレター

Vol. 24 No. 2 (2017年6月28日発行)

目次

2016年度論文賞の選考について
言語処理学会第23回年次大会(NLP2017)報告
言語処理学会第23回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について
言語処理学会第23回通常総会報告
言語処理学会第24回年次大会について

□2016年度論文賞の選考について

論文誌編集委員会


2016年に出版された自然言語処理23巻1号から5号に掲載された論文17編より,賞に相応しい論文を推薦することを目標として,編集委員19名を選考委員とする選考委員会を編成し,以下の手続きで選考を実施しました.


(1) 候補論文の決定:上記17編の論文のうち,査読点数が5点満点で4点以上の論文および担当編集委員から推薦のあった論文を候補論文とし,計11編の論文を一次投票の対象としました.


(2) 一次投票:選考委員は11編の候補論文の中から,COI(※)を考慮して各自に割り当てられた約3編の論文を読んだうえで,10点満点で採点しました.一論文あたり5名の委員が審査し,高得点を得た上位5編を選出しました.


(3) 二次投票:松吉俊編集委員を選考委員長として,COIのない7名を審査員とする最終選考委員会を編成し,高得点を得た上位5編の論文を対象に,委員が全論文を読んだ上で,二次投票を行い,審議を行いました.その結果,二次投票で高得点を得た上位2編の論文を論文賞候補に推薦し,最優秀論文賞への推薦は行わないことを全員一致で決しました.


(論文賞)
タイトル:自動要約における誤り分析の枠組み
著者:西川 仁
発行号頁:Vol.23 No.1, pp.3-36


(論文賞)
タイトル:「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト:代ゼミセンター模試タスクにおけるエラーの分析
著者:松崎 拓也,横野 光,宮尾 祐介,川添 愛,狩野 芳伸,加納 隼人,
佐藤 理史,東中 竜一郎,杉山 弘晃,磯崎 秀樹,菊井 玄一郎,堂坂 浩二,
平 博順,南 泰浩,新井 紀子発行号頁:Vol.23 No.1, pp.119-159


以上,2編の論文については第23回年次大会で招待論文として講演いただきました.


※COIについて:
選考にあたっては,以下の条件に一つ以上該当する委員は,当該論文の議事に参加せず,審査を実施した.
・著者である
・著者と現在同じ組織に所属している
・著者と過去1年以内に共同で研究している



□言語処理学会第23回年次大会(NLP2017)報告

第23回年次大会委員長 加藤 恒昭(事業担当理事・東京大学)
同 プログラム委員長 相澤 彰子(国立情報学研究所)
同 実行委員長 山本 幹雄(筑波大学)


○ 場所・期日

言語処理学会第23回年次大会は,筑波大学(つくば市)において,次のとおり開催されました.

チュートリアル 2017年3月13日(月)
本会議     2017年3月14日(火)〜16日(木)
ワークショップ 2017年3月17日(金)


○ 参加状況
歴代最多の参加者数となりました.人工知能ブームと久しぶりの首都圏開催が一因と思われます.数字は示していませんが,非会員の参加者が多いことや,学生・アカデミア・企業からの参加者の割合がおおよそ等しい点が特徴的です.
事前受付   720名
当日受付   189名
招待者    9名
合計     918名


○ プログラム概要

本会議 (3月14日〜16日)

合計301件の研究発表がありました.内訳は次の通りです.総件数,内訳共に前回とほぼ同様となっています.口頭発表とポスター発表とがほぼ同数のバランスのとれた内容となりました.
・口頭発表(一般)        125件
・口頭発表(テーマセッション)  31件
・ポスター発表         145件

上記テーマセッションでは,次の3つのテーマが公募により設定されました.
・言語教育と言語処理の接点
・語義タグの付与とその利用
・翻訳の質と効率:実社会におけるニーズと工学的実現可能性

招待講演

・後藤 真孝 氏(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)
「音楽情報処理の最前線を紹介しつつ言語処理との接点を探る」(3月14日)
・山梨 正明 氏(京都大学名誉教授,関西外国語大学教授)
「認知言語学---言語科学の静かなる革命」(3月16日)

招待論文講演 (3月16日)

・西川 仁 氏
 「自動要約における誤り分析の枠組み」
・松崎 拓也 氏,横野 光 氏,宮尾 祐介 氏,川添 愛 氏,狩野 芳伸 氏,
 加納 隼人 氏,佐藤 理史 氏,東中 竜一郎 氏,杉山 弘晃 氏,
 磯崎 秀樹 氏,菊井 玄一郎 氏,堂坂 浩二 氏,平 博順 氏,
 南 泰浩 氏,新井 紀子 氏
 「『ロボットは東大に入れるか』プロジェクト:代ゼミセンター模試タスクにおけるエラーの分析」

チュートリアル講演 (3月13日)

・馬場 雪乃 氏(京都大学)
 「ヒューマンコンピュテーションとクラウドソーシング」
・金山 博 氏(日本IBM東京基礎研究所),
 田中 貴秋 氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
 「Universal Dependenciesと日本語」
・中澤 敏明 氏(JST) 「ゼロから始めるニューラルネット機械翻訳」
・西村 義樹 氏(東京大学)  「文法と意味:認知言語学の視点」

特別ワークショップ (3月17日)

言語処理学会編集委員会からの特別企画として,以下が開催されました.
・言語処理の応用


○ 総括

言語処理学会第23回年次大会を筑波大学筑波キャンパス春日エリア(つくば市)において,2017年3月13日(月)から17日(金)にかけて開催しました.参加者は,事前受付720名,当日受付189名,招待者9名の計918名と,歴代最多となり,各セッションとも活気にあふれる大会となりました.

運営は,事業担当理事を中心とした大会委員会の下にプログラム委員会と実行委員会を配置して進めています.発表申込,参加申込の手順は従来のものを踏襲し,安定した運営を行うことができました.前回より導入しました参加費支払いのクレジット決済は,今回も多くの方にご利用いただきました.

プログラム編成も,ここ数年間のものを踏襲しました.すなわち,
・オープニングセッションおよびクロージングセッションの実施
・発表申込と論文投稿の同時受付
・ダウンロード形式での予稿集の配布と予稿集CD-ROMの廃止
・学会論文賞受賞者による招待論文講演
・大会賞(優秀賞および若手奨励賞)の事前選考と大会クロージングセッションでの表彰
を行いました.これらは,年次大会のスタイルとして定着したと考えています. 一方,細部については,これまでの伝統や大会関係者の意気込みを少しでも多く汲み取れるよう,「最新の情報が得られる年次大会」,「いろいろな人と交流できる年次大会」の2つをポイントに構成を決めました.

今回,プログラムを編成する上で助けになったのは,発表件数がここ何年か比較的安定化している点です.ここ数年の年次大会のスタイルとして,5並列の口頭発表セッション,シングルトラックのポスターセッションが定番化し,かつ口頭発表とポスター発表の件数がほぼ同数となっています.時間枠をいっぱいに使ったプログラム編成にとって大変ありがたいことでした.

第20回大会から始められた,クロージングで大会賞表彰のための大会賞選考は,幾つかの改善を行ってきましたが,担当プログラム委員,ご協力いただく選考委員の負担はなかなか少なくなりません.厳しい時間的制約の中で多くの皆様に多大なるご尽力をいただきました.誠にありがとうございました.一方で,今回,言語資源協会と協力し,言語資源賞という新しい賞を設けました.言語資源協会と協調しての運用は非常にスムーズに行われました.

歴代最多という参加者に対応するため,会場も,口頭発表で使われる教室の机を一部撤去しシアター形式にして座席数を増やすなどの工夫をこらしました.それでも立ち見がでてしまったのは残念です.招待講演等が行われた春日講堂はゆとりのある心地よいものでした.ポスター会場も混雑していたことは間違いありませんが,発表や議論に支障をきたすほどではなく,大会の活気そのものの心地よさであったと感じています.スポンサー展示も好評でした.会場においては,後述の冠スポンサーから提供いただいた茶菓とともに,自然言語処理技術の最新のビジネス応用について多数の展示をしていただきました.特に学生参加者からの評判が高かったようです.懇親会も盛会のうちに催されました.こちらにも冠スポンサーのご支援があり,多くの皆様にご満足いただけたと思っています.

昼食施設が会場となっているキャンパス内にないということで,ご面倒おかけしましたが,この点もプログラム編成の工夫もあり,大きなご不便ではなかったかと思います.なおインフルエンザの感染があったとの報告を受けています.この冬は長い間流行が続いた上に,多くの人が集まったということが原因のひとつと考えられます.対策としては,参加者の皆様のご協力をお願いするしかないのだろうと考えています.

会計的には,歴代最多の参加者に支えられ,一部の参加費を見直したこともあって参加費収入の増加があり,あわせて昨年度を更に大きく上回るスポンサー様からのご支援によって,収入は大きく増加しました.支出は,筑波大学との共催により会場を無料で使用させていただいたこと等で,抑えることができました.このため今回も黒字決算となっています.

上でも触れましたように,本年もたいへん多数のスポンサー様にご支援を賜りました.また昨年より設けました,大会の特定の項目にご支援を頂く冠スポンサーに,今年も多数のご賛同を頂きました.心より感謝いたします.スポンサー様との朝食会を実施させていてだき,今後の協力と発展にむけた実りある情報交換の場とさせて頂きました.スポンサーの皆様には,今後も一層のご支援・ご協力をお願いできればと考えます.

300件を超える研究発表,900名を越える参加者,50社を超えるスポンサー様と,年次大会の規模は,ますますふくれあがっています.会場の選定を含めて,その運営はますます難しくなっています.この規模,そして更なる拡大に耐えうる運営方法の確立が学会としての急務であると感じています.

それでも今回も無事,どころか大盛会として,年次大会を催せたのは,プログラム構成を行うプログラム委員会と会場を運営する実行委員会の多くの委員の皆様がボランティアベースにもかかわらず,本当に熱心にご尽力いただいたからです.年度末にかけてのお忙しい時期に気持ちよくそして効率的に仕事をこなしてくださった皆様に.委員長として感謝いたします.そして,参加者の皆様一人一人が本大会を盛り上げてくださり,これだけの大盛会としていただいたことに.委員会一同として,深く感謝いたします.

今後も,学会会員にとってより有効な情報交換の場となるように,必要な改善をおこない,年次大会をますます発展させていきたいと考えています.今回,更なる改善のための試みとして,「年次大会の活性化案検討会」を行いました.そこでの議論は次回の年次大会に反映させたいと考えています.ご期待下さい.あわせて,皆様からのご意見・ご提案をお待ちしています.



□第23回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について

第23回年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考について


言語処理学会年次大会 優秀賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文に与えられる賞です.また,優秀賞のうち特に優れたものがあれば,最優秀賞として選定されます(言語処理学会年次大会優秀賞規定).同様に,若手奨励賞は,年次大会において,論文の内容に優れたものと認められた発表論文の発表者であり,かつ,以下の条件を満たす者に与えられる賞です(言語処理学会年次大会若手奨励賞規定).


・年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの
・講演者として登録かつ講演を行ったもの
・過去に優秀賞を受賞していないこと
・過去に若手奨励賞を受賞していないこと


近年の年次大会においては,参加者の利便性を考慮し,大会賞を大会期間中に表彰しています.今回も,年次大会の開始前に全論文を対象に審査を行い,大会賞を決定しました.


大会賞の選考のための内規では「優秀賞の中で特に評価の高いものを0件から2件の範囲で最優秀賞とする.優秀賞は全発表件数の約2%を目安とする.若手奨励賞の受賞者は数件(上限は5件)」と規定されており,今大会でもこれに基づいて選定を進めました.今回の年次大会では301件が優秀賞の対象となる論文であり,優秀賞の授賞件数は6件前後を目安としました.また若手奨励賞の対象となる論文は198件でした.


年次大会優秀賞・若手奨励賞の選考にあたっては,選考委員会を組織し,慎重な議論を重ねた上で選定を行いました.今回,選考委員会は計137名で構成されました.各授賞論文には議論で合意された授賞理由が付記されます.また,責任を明確にするために,最終選考に関わる委員の名前を公表します.ただし,最終的な責任は委員長の相澤が負うものとします.


大会賞の選考は,1次選考と最終選考の二段階で行いました.1次選考では全ての論文を3つのグループ(言語学・言語分析,基盤技術・言語資源,応用技術)に分け,各論文に対し3名の選考委員を割り当て,審査を行いました.選考委員はそれぞれ7件程度の論文を担当し,各論文に対して,総合評価(5段階),新規性(5段階),有用性(5段階),読みやすさ(5段階),推薦理由を提出します.各グループの主査は選考委員の審査結果に基づいて論文を順位付け,各グループにおいて優秀賞候補5件,若手奨励賞候補5件を目安として候補リストを作成しました.この結果,優秀賞候補13件と若手奨励賞候補15件(うち4件が優秀賞候補をかねる)が最終選考へ進みました.また最終選考委員会の委員長は,利益相反を考慮し,山本先生にお願いしました.


最終選考では,候補論文との利益相反を考慮して8名の委員からなる大会賞最終選考委員会を組織し,まず,上記13件の優秀賞候補論文を全員で審査しました.全選考委員による重み付き投票および遠隔会議による討議の結果,6件を優秀賞として推薦することとしました.今年は授賞件数の目安6件程度に従った数の受賞となりました.上記6件のうち,特に高い評価を集めた上位2件を最優秀賞として推薦することとしました.若手奨励賞については,1次選考で推薦された15件(うち4件が優秀賞候補を兼ねる)の中から,全選考委員による重み付き投票と討議の結果,先に優秀賞に選ばれた1件を除き,最終的に4件を若手奨励賞に選定しました.


第23回言語処理学会年次大会優秀賞最終選考委員


 山本 和英 (委員長,長岡技科大)
 大熊 智子 (富士ゼロックス)
 嶋田 和孝 (九工大)
 白井 清昭 (JAIST)
 中岩 浩巳 (名大)
 中澤 敏明 (JST)
 延澤 志保 (東京都市大)
 吉田 稔  (徳島大)


■言語処理学会第23回年次大会 最優秀賞 (2件)


B3-2 単語出現頻度予測機能付きRNNエンコーダデコーダモデル
  ○鈴木潤, 永田昌明 (NTT)

本論文では,最近注目されているリカレントニューラルネットに基づくエンコーダデコーダモデルについて,同じフレーズが繰り返し生成される問題を要約タスクでの重要課題と位置付け,単語頻度の上限値予測とその結果を用いた単語選択制御とを組み込むことで解決を図る手法を提案しています.予測モデルはよく練られており丁寧に検討されている印象です.評価実験により従来手法に対して高い精度を示しており,また生成された要約もより自然なもので,冗長な繰り返しを効果的に軽減する手法として興味深い内容です.新規性,有用性,有効性の面でも,論文の完成度の面でも,最優秀賞にふさわしい論文と評価いたしました.


P18-3 ニューラル機械翻訳での訳抜けした内容の検出
  ○後藤功雄, 田中英輝 (NHK)

本論文では,最近その訳文の流暢さから注目を集めているニューラル機械翻訳(NMT)において深刻な問題となっている入力文の内容の一部が欠落する訳抜けの問題に対し,累積アテンション確率と,n-best訳の逆翻訳確率を活用し,訳抜けの検出を行い,その結果を翻訳結果のリランキングに活用する手法を提案しています.評価実験により,訳抜けの検出精度,及び,翻訳結果のBLEUによる品質評価の両面で,その有効性が示されています.これらの成果は,新規性が高く,今後のNMT研究に対する波及効果も大きいことが期待できます.また,論文としての完成度も高いことから,最優秀賞にふさわしい論文と判断いたしました.


■言語処理学会第23回年次大会 優秀賞 (4件)


B2-2 Skip-gram Model with Negative Samplingのオンライン逐次学習
  ○鍜治伸裕, 小林隼人 (ヤフー)

本論文は単語の分散表現の代表的な学習法の一つであるSkip-gram Model with Negative Samplingを拡張し,オンライン逐次学習を行えるようなアルゴリズムを提案しています.従来のバッチ学習では新たなデータを入手した際に,全てのデータを使って分散表現を再学習する必要があり非効率でしたが,提案手法ではこの問題を克服しており,実用的な面からの問題意識が明確です.アイデアとしては,負例サンプリングを行う際に用いる雑音分布を逐次更新するというシンプルなものですが,これを高速かつ効率よく行うための工夫もいくつか提案しています.また提案手法が従来のバッチ学習と同程度の質の分散表現を学習できることを定性的にも定量的にも評価しており,論文としての完成度も高く,優秀賞にふさわしい論文と言えます.


C2-2 係り受け構造との同時予測によるA* CCG解析
  ○吉川将司, 能地宏, 松本裕治 (NAIST)

本論文ではCCGによる構文解析を行う際に,係り受け構造の予測を同時に行うことによって解析時の規則適用の曖昧性を解消する手法を提案しています.この手法は従来手法であるBi-directional LSTMを用いたCCG解析モデルを拡張したものですが,提案手法によって高い解析精度が得られることを評価実験で実証しています.実験では日英2つの評価セットを用いて手法の優位性を確認しており,汎用性の高いアルゴリズムであることが示されています.進歩性と新規性共に高く優秀賞に値する論文です.


B4-5 ニューラルネットワークによる日本語述語項構造解析の素性の汎化
  ○松林優一郎, 乾健太郎 (東北大)

本論文では,ニューラルネットワーク(NN)によって日本語述語項構造解析モデルを学習するにあたり,二値の学習素性を分散表現(埋め込みベクトル)に置き換えることの効果を実験的に検証しています.NNの入力として,統語関係パス埋め込み,単語埋め込み,二値素性の任意の組み合わせを与えたときの結果を比較し,埋め込みベクトルが従来の二値素性と同等の性能を持つことを示しています.また,従来の二値素性の組み合わせを使うモデルをNNアーキテクチャに拡張することで,従来手法からの大幅な性能向上が認められています.近年,word2vecを始めとする分散表現は広く使われていますが,特定のタスクに限られてはいるものの,その有効性の検証結果を報告していることは多くの読者にとって有益であり,優秀賞にふさわしい論文と言えます.


C6-4 外来語の意味変化に対する数理的分析
  ○高村大也 (東工大), 永田亮 (甲南大), 川崎義史 (上智大)

本論文では,英語由来の外来語に対する意味変化を数理的に分析しています.日本語の分散表現を英語の分散表現に写像し,意味的類似度を計算することで,意味変化を定量的に捉えようとしています.言語横断的な分散表現の応用であり,テーマ設定もあわせて興味深い論文となっています.実験結果を通じて,提案手法の有効性を定性的にも定量的にも検証しています.まだ最初の段階ですが,英語学習者の英単語の誤用という教育への応用も検討している点も評価できます.独創的で,今後の発展性も高く,優秀賞にふさわしい論文です.


■言語処理学会第23回年次大会 若手奨励賞 (4件)


C2-1 依存構造解析のための内容語と機能語の多言語可逆変換
  小比田涼介(NAIST)

構文構造に付与するアノテーションの方式は様々な理論やフレームワークによって提唱されていますが,アノテーション方式の問題点について検証する研究はそれほど多くはありません.本論文は近年様々な言語に適用されて注目を集めているUniversal Dependencyがヘッドのアノテーションを内容語によって行う方式を採用していることの問題点を挙げた上で,ヘッドを機能語に置換すると解析精度が向上するという実験結果によってその仮説を実証しています.研究テーマの新規性のみならず評価実験や考察がきちんとなされている点で論文自体の完成度も高く,若手奨励賞に値する論文です.


P15-6 英語学習者の文法誤りパターンと正誤情報を考慮した単語分散表現学習
  金子正弘(首都大)

本論文では,Bidirectional long short-term memory (Bi-LSTM) によって入力文中の文法誤りを検出するモデルにおいて,Bi-LSTMの入力となる単語分散表現を学習する新しい手法を提案しています.汎用的な手法で得られた単語分散表現では文法誤りの特徴を捉えられないという問題点を指摘し,その解決策として,学習者の文法誤りパターンを考慮して負例を作成する手法と,正誤情報を考慮した目的関数を設定する手法を提案しています.文法誤り検出の標準的なデータセットを用いた評価実験の結果,2つの手法を組み合わせて学習した単語分散表現が従来手法を上回ることを確認しています.問題点の分析,それに対する解決策の提案,提案手法の有効性の評価が堅実に論じられており,若手奨励賞にふさわしい論文です.


D5-2 文書全体を考慮したニューラル文間ゼロ照応解析モデル
  大内啓樹(NAIST)

文間ゼロ照応解析における既存手法の多くは外部資源や構文情報などの局所的な統語情報に基づいており,大域的な文脈情報の考慮が不十分でした.本論文は双方向リカレントニューラルネットワークを利用することで文書全体を考慮する文書エンコードモデルを提案しています.これにより文書内に出現する全ての単語を先行詞候補として考慮し,先行詞である確率を推定することができます.先行詞候補の単語の素性として単語のIDや解析対象の述語のID,両者が属する文間の距離といったシンプルな素性のみを使い,外部資源を使用していないにもかかわらず,実験では外部資源を使用する既存手法と同程度の精度を達成し,大域的な文脈情報を捉えることの重要性を示しています.問題設定や解決方法が妥当で,論文も丁寧に書かれており,また今後の発展性も高いことから,若手奨励賞に値する論文です.


B7-1 時系列数値データからの概況テキストの自動生成
  村上聡一朗(東工大/産総研)

本論文は,日経平均株価と概況テキストを題材として,時系列データを説明するテキストの生成という問題に取り組んでいます.テキスト生成において近年多く使われるencoder-decoderモデルをベースに,短期的時系列と長期的時系列,株価に対する複数の前処理,時間帯等,様々な要素を考慮することに加え,テキスト中での数値への言及を,元の数値に対するいくつかの演算操作としてパターン化しています.数値からのテキスト生成において問題となる部分について,研究対象に即した適切かつ新規性のあるモデルが提案されており,その有効性の検証および考察が,様々な設定を網羅的に実験することで,適切に行われています.数値時系列データからのテキスト生成という分野を発展させる可能性を秘めた研究であり,また,問題設定が明確で,説明も明瞭に行われており,若手奨励賞に相応しい論文です.



□言語処理学会第23回通常総会報告

総務担当理事 河原大輔 (京都大学)


日時: 2017年3月14日(火) 12:40〜13:20
場所: 筑波大学 筑波キャンパス 春日エリア 7A棟1階104講義室
出席者: 代議員23名(内,書面による議決権行使者6名),理事:12名,監事:2名


議題

■ 第1号議案 2016年度決算報告
資料「第23回通常総会」に基づき,2016年度の決算報告があり,その内容が承認されました.

■ 第1号報告 2016年度事業報告
 資料「第23回通常総会」に基づき,2016年度の事業内容が報告されました.

■ 第2号報告 2016年度監査報告
 資料「第23回通常総会」に基づき,2016年度の監査の結果,会計監査,業務監査ともに問題のないことが報告されました.

■ 第3号報告 2017年度事業計画
 資料「第23回通常総会」に基づき,2017年度の事業計画が報告されました.

■ 第4号報告 2017年度予算案
 資料「第23回通常総会」に基づき,2017年度の予算案が報告されました.

■ 第5号報告 2017年度代議員構成
 資料「第23回通常総会」に基づき,2017年度の代議員の一覧が報告されました.


配布資料
■ 第23回通常総会 資料: http://www.anlp.jp/doc/gm/gm23_2016.pdf


□第24回年次大会について

言語処理学会第24回年次大会の開催予定は以下の通りです.


□日時: 2018年3月12日〜16日
□会場: 岡山コンベンションセンター(ママカリフォーラム)

大会委員長:     山本 和英(長岡技術科学大学)
大会実行委員長:   竹内 孔一(岡山大学)
大会プログラム委員長:林 良彦 (早稲田大学)


詳細が決まりましたら http://www.anlp.jp/ で順次お知らせいたします.



学会に関する問い合わせ先

中西印刷株式会社 言語処理学会事務局
〒602-8048 京都市上京区下立売通小川東入ル
e-mail nlp (at) nacos.com

ニュースレター担当理事
渡辺日出男 (日本IBM株式会社)
e-mail hiwat (at) jp.ibm.com
加藤恒昭 (東京大学)
e-mail kato (at) boz.c.u-tokyo.ac.jp