言語処理学会ニュースレター

Vol. 15 No. 2 (2008年8月8日発行)


目次

会長退任の挨拶
会長就任挨拶
言語処理学会第14回年次大会報告
第14回年次大会 プログラム委員会からの報告
言語処理学会第14回通常総会報告
第14回年次大会 優秀発表賞選考について
2007年度論文賞について(既報)
その他(第15回年次大会について)


□会長退任の挨拶

石崎俊(慶應義塾大学)

 2006年度と2007年度に会長を務めましたが、以下にご紹介しますようにいくつかの新しい事業が実現しましたので整理してご紹介したいと思います。これらの事業や記録は、それまでの歴代の会長や理事の方々のご努力が実り、多くの会員の方々のご協力でできたものですので感謝に絶えません。

 毎年3月に開催する年次大会では2006年に慶應義塾大学、2007年滋賀の龍谷大学で、それぞれで過去最高の参加者数を記録しました。関東地区とそれ以外の地区で毎年交互に開催していますが、慶應義塾大学ではチュートリアル、本会議、それにワークショップで合計の延べ数で1250名を超えていました。龍谷大学では1040名を超えました。この数字は会員数から見た割合を考えますと顕著に多い参加者と思います。これらは年次大会のプログラム委員会と実行委員会の皆さんのご努力のお陰と感謝しています。また、学会創設時に、他の学会に多く見られた研究会の制度を導入しないという方針を決めたことを思い出しますが、年次大会の盛会を見ますと、この方針が生きているという実感を受けました。また、年次大会へ従来から言語に関係する多分野の研究者の参加を歓迎するために、いわゆる文系分野の研究を中心としたセッションも実現して軌道に乗っています。同様なことは、学会の雑誌に言語学系のテーマで特集号を組む企画も継続して実現し、多くの投稿があると聞いています。

 学会の英文誌の刊行は、やはり学会の創設時からの課題でしたが、情報系の6つの学会が協力して、英文論文のリプリントを束ねた合同アーカイブInformation and Media Technologiesを発刊しました。それぞれの学会のジャーナル掲載論文のうち英文で公表された論文を対象に海外への発信を目的にしてJSTの電子ジャーナルシステムを利用したものです。2006年度はVol.1, No.1を発行し、言語処理学会から6件の論文が掲載されました。2007年度はVol.2,No.1~No.4を発行しました。

 2006年度に始めた学会の国際的な事業として、長尾先生のご寄付でできた長尾ファンドを用いて行う若手研究者への支援活動があります。2006年度にはCOLING-ACL会議で優秀な若手研究者を選んで、The AFNLP-Nagao Fundという名称で旅費などの支援をしました。2007年度には第2回としてインドで開催されたIJCNLPで長尾ファンドから若手研究者を支援しました。これらの支援は国際会議の実施者や支援を受けた研究者から歓迎されていますので、出来れば今後も続けていただきたいと思います。

 2006年度に企画したものの一つに、学会の設立15周年記念事業として「言語処理学事典」を出版する事業があります。これは自然言語処理に関する基礎から応用まで幅広いテーマを集めたもので、全体を5部構成として、言語資源、基礎技術、総合技術・応用技術、言語科学の基礎、言語科学の展開としています。関連領域としては言語学ばかりでなく心理学や脳科学も含め、また、WEBの情報検索や情報抽出などの応用システムにもページを割いて、2009年度に共立出版から出す予定です。用語集や索引を含めて全体で900ページ程度になる規模を想定しています。

 学会の財務状況については、私の前の代の中川裕志先生が会長のときに、学会の事務を委託していた団体に問題があってご心配をおかけしたと思いますが、中川先生と財務担当の仁科先生のご尽力で乗り切ることができ、その後は順調に進められています。2007年度以降は若干の余裕ができたので、どのように会員の皆さんに還元するかも理事会で議題になっているようです。

 私自身は、国際標準化機構ISOの傘下で専門用語や言語資源に関する標準化を扱うTC37(Technical Committee 37)にしばらく前から関係しています。その中でも言語資源についての国際標準化に関係する活動を行っています。言語資源の記述法などの他、多言語資源や辞書、機械翻訳、オントロジーなども扱っており、標準化の対象は年々増加しています。もう一つの国際標準化活動としては、情報処理学会情報規格調査会があります。これはISOとIEC(国際電気標準会議)の共同の傘下にあって、IT全般の国際標準化を扱っており、10年以上関係しています。自然言語処理に関係のある標準もあるので今後も言語処理学会との連携ができれば幸いです。

 言語処理学会は今年度から池原先生を中心とする新しい体制が発足し、ますます活発な学会活動を展開されることと思います。若い方々のエネルギーを生かした言語処理学会の発展と会員の皆さんの研究の進展を願っています。



□会長就任挨拶

橋田浩一(産業技術総合研究所)

 2008年4月に副会長兼総編集長に就任しました。会長の池原先生がご病気のため、代理でご挨拶いたします。

 言語処理学会は、会員が漸増しており、大会の参加者も増えつつあり、論文誌に投稿・掲載される論文も多く、また財政状況も健全なので、さしあたり経営に関しては心配がないと思うのですが、それでもやはりいろいろな課題を抱えています。特に、研究分野の間での交流をもっと推進すべきではないかと考えています。分野の間での相互作用を通じて新しい研究分野を創出するような場を本学会が提供できたら素晴らしいと思うのですが、現実はあまりそういう感じでもないようです。

 たとえば、工学系と言語学系の研究者の間での交流が低調だという問題があります。これについては、学会としても大会で特別セッションを設けるなどの方策を構じてきており、一定の成果が上がっています。しかし、両分野の知見が相互作用して次々に新たな展開を生むという状況からはほど遠いと思います。これは、大規模なコーパスからの統計的学習に基づくアプローチが成熟し、工学系の研究者の多くが参入しているためでしょう。統計的アプローチは具体的な言語表現や文脈の詳細な構造を扱うものではないので、言語学系の研究テーマと興味がずれてしまい、交流が成立しにくくなっているように思われます。

 現在、工学系の研究者と言語学系の研究者との間での最も有機的な交流は、コーパスの作成に関するものでしょう。とりわけ科研の特定領域研究「日本語コーパス」では、言語学系・工学系の研究者が連携してコーパスの作成や利用に関する研究を進めています。ところが、コーパスは研究用なので、こうした研究成果は一般の利用者に直接的には届きません。実用的な成果を短期間で出すように求められている工学系の研究者の多くがこのようなコーパスの研究に参加するのは難しいでしょう。

 一方、工学系の研究においては、言語コンテンツが作成され、流通し、新たなコンテンツの作成に再利用されるというコンテンツのライフサイクル全体を支援することが、知的生産性の向上を図る上で重要のはずです。しかし、2年間編集長を務めてきた印象では、言語コンテンツを解析して構造を求めたり用語や規則性を抽出したりする研究に比べて、言語コンテンツの作成を支援する研究が圧倒的に少なく、バランスが悪いと思います。

 これら2つの問題を一挙に解決するひとつの方法は、コーパスを作る研究を拡張して一般の利用者向けのコンテンツの作成も扱うようにすることでしょう。そうすれば、言語学の知見に基づいて構造化されたコンテンツを一般利用者も使うようになり、言語学の成果が直接一般の人々に役立つようになるはずです。

 これに関連して、情報処理技術と認知科学についての小項目主義の辞典をオントロジーで構造化した形で作り、さらにそのインフラを共有することにより多数の学会にわたる総合的な学術用語集を作って一般公開するとともに、それを基盤とする新しい学会サービスを生み出そうという動きが、情報処理学と認知科学会を中心として立ち上がりつつあり、私もそれに関わっています。言語処理学会がこれを座視しているわけには行かないでしょう。自然言語処理技術を使ったいろいろなサービスを提案して自然言語処理の有効性を世に示したいものです。

 この手の挨拶にしては話がやや偏ってしまったかも知れませんが、他にも課題はたくさんあり、いずれにおいても会員各位のご協力がなくてはなりません。どうぞよろしくお願いいたします。

□第14回年次大会報告

第14回年次大会実行委員長
加藤恒昭(東京大学)




□第14回年次大会 プログラム委員会からの報告

第14回年次大会プログラム委員長
田中英輝(NHK)

 実行委員会からの報告にありますように、第14回は過去最大規模の大会とな りました。ご参加いただいた皆様、また直接大会の運営・企画にご尽力いただい た実行委員会、東京大学の関係者の皆様、プログラム委員会の皆様に厚くお礼を 申し上げます。毎年規模が拡大していることは、この分野の発展を意味している ことから喜ばしいことですが、一方で、運営上難しい点も出てまいります。第14 回プログラム委員会では前年度委員会からの引継ぎを検討して、以下のような方 針で大会を企画しました。

大会内容




□言語処理学会 第14回通常総会報告

日時: 2008年3月19日(水) 13:00〜14:00
場所: 東京大学 駒場キャンパス 13号館1313教室
出席者: 97名,有効委任状 213名 (内 議長への委任 212名)

 総会に先立ち、石崎会長から挨拶があり、2007年度論文賞1件ならびに第13回年次大会最優秀発表賞2件、優秀発表賞4件の受賞式が行なわれました。

 続いて、出席者数が定足数(正会員数770名の10分の1)を満たすことを確認し、第14回通常総会が開催されました。石崎会長が議長として選出され、以下の議題の審議が行なわれました。

(総務担当理事 森辰則)




□第14回年次大会 優秀発表賞選考について

第14回年次大会プログラム委員長
田中英輝(NHK)

 言語処理学会年次大会優秀発表賞は、年次大会において、論文の内容およびプレゼンテーションに優れたものと認められた発表論文に与えられる賞です。また、優秀発表賞のうち特に優れたものがあれば、最優秀発表賞として選定することが第11回からとりいれられました。

 第12回大会において、優秀発表賞規定が改訂され、発表件数に応じて、優秀発表賞の件数も増減することとなりましたが、今大会でもこの規定に基づいて優秀発表賞の選定を進めました。今回の年次大会では294件の発表がありましたので、授賞件数は5〜6件を目処としました。

 74名の選考委員の皆様に優れた発表を推薦していただいた結果、65件が選考対象となりました。次に、選考委員会において、これらに対する投票を行った結果、得票数が多かった上位5件を優秀発表賞として推薦することとしました。さらにこの中の上位3件は得票数差が小さかったため、これらの間から1件を最優秀発表賞として選択する投票を行いました。

 授賞件数は総発表件数の2%以内ということになっておりましたので、今回の選考結果の5件(1.7%)は適切な件数と思われます。 6月27日に開催された理事会におきまして、これらを推薦・諮問し、承認を得ました。以下が、第14回年次大会において優秀発表賞に選ばれた論文です。

第14回言語処理学会年次大会 優秀発表賞



2007年度論文賞について(既報)

橋田浩一(産業技術総合研究所)

 2008年3月19日、通常総会に先立って2007年度の論文賞の表彰式が行われました。受賞論文は下記です。

著者: 河原大輔(情報通信研究機構)・黒橋禎夫(京都大学)
題名: 自動構築した大規模格フレームに基づく構文・格解析の統合的確率モデル
掲載: 自然言語処理 14巻4号

選考過程(編集委員会報告から):
 論文賞は、採録論文30件程度につき1件を目途に授与することになっています (平成18年1月の編集委員会で提案し、理事会で承認)。これに基づき、2007年 に出版された自然言語処理14巻1号から5号に掲載された論文39件から1件を推 薦することを目標として、以下の手続きで候補論文の選考を行いました。

  1. 第1次選考として、期間中の各号に掲載された論文のうち、査読点数が5点 満点で4点以上の論文20件を対象に、1論文あたり2名の編集委員が読み、10 点満点で採点しました。
  2. その結果、高得点を得た5件の論文を第2次候補論文とし、編集委員全員が4 点満点で採点しました。
  3. その最上位の論文1件を、編集委員会として論文賞候補に推薦することに 決しました。
  4. 編集委員会から上記の過程を経て推薦され、理事会で承認された上記論文 について、評議会で2007年度論文賞を授与することが了承されました。



□その他

  1. 第15回年次大会について

    言語処理学会第15回年次大会は、下記の予定で開催されます。

    日程:
    2009年3月2日(月)チュートリアル
    2009年3月3日(火)〜3月5日(木)本会議
    2009年3月6日(金)ワークショップ

    場所:鳥取大学

    大会委員長: 加藤恒昭(東大)
    実行委員長: 村上仁一(鳥取大)
    プログラム委員長: 黒橋禎夫(京大)

  2. サーバ停止について

    サーバ設置施設での電源定期点検に伴い、学会のホームページへのアクセスが
    8月8日(金)の18時頃から
    8月11日(月)の12時頃まで
    停止いたします。ご不便をおかけしますが、ご協力のほどお願いいたします。




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