言語処理学会ニュースレター

Vol. 10 No. 3 (2003年7月22日発行)


目次

第9回通常総会の報告
第9回年次大会優秀発表賞選考について
論文賞(2002年,第9巻)について
本の紹介

■第9回通常総会の報告■

去る6月25日,正会員228名(委任状203名を含む)の出席を得て,通常総会が 開催されました.

会長挨拶に引続き、第9回年次大会優秀発表賞・論文賞授賞 式が行なわれ、その後、島津会長を議長に選出し、審議が行なわれました。

まず、2002年度の活動報告がなされ,2002年度の会計報告が承認されました. 次に、会計年度を,現行の4月1日から翌年3月31日を,1月1日から12月31日に 変更するように会則を改定する案が理事会から提案され,この改定案が承認さ れました.なお,この会計年度の変更の最大のメリットは,総会を年次大会に おいて開催できるようになるため,総会への参加者の増加が見込めることであ るとの説明がありました.この後,2003年度の事業計画と予算案が承認されま した.

第9回通常総会次第

日時:6月26日(木)16時〜17時
場所:東京工業大学大岡山キャンパス西8号館E棟10階大会議室
目黒区大岡山2-12-1
  1. 開会
  2. 会長挨拶
  3. 第9回年次大会優秀発表賞・2002年論文賞授賞式
  4. 議長選出
  5. 2002年度活動報告
  6. 2002年度決算報告,監査報告
  7. 2003年度事業計画提案
  8. 会則の変更について(会計年度の変更)
  9. 2003年度予算計画提案
  10. 2003年度評議員構成
  11. 2003年度役員構成
  12. 閉会


■第9回年次大会優秀発表賞選考について■

(1) 選考委員の選出
プログラム委員会で選考委員として各セッション2名ずつを選出した.ポスター 以外のセッションでは1名は座長が兼務することとした.各選考委員の担当は1 セッションとした.合計54名.担当するセッションでは選考委員と論文の著者 の所属は重ならないようにした.また,選考委員が一つの所属に重ならないよ うに各所属ごとに選考委員はだいたい最大3人までとした.

(2) 第1回目の投票
全選考委員には,内規に従って,担当セッションの発表から2件以内を候補と して選び,10点満点で評点を付けて推薦してもらった.集計結果は,推薦件数 全54件であった.

(3) 第2回目の投票
上記54件の中から各委員が5件以内の論文に投票した.

(4) 第3回目の投票
第2回投票で5票以上を得た上位8件の論文の中から各委員が3件以内の論文に投 票した.その結果上位の5件を選定することとした.

(5) 選考委員会からは以下の5件を理事会に推薦した.理事会では選考委員会 からの推薦を承認し,優秀発表賞の授与を決定した.

優秀発表賞
A1-5 「検索エンジンに基づく多言語用例指南ツール:Kiwi」
山本真人,田中久美子,中川裕志 (東大)
P4-10 「日本語流行歌中の外来語に関する調査
吉田桃子,望月源 (東京外語大)
B4-9 「『常識的』推論規則のコーパスからの自動抽出」
鳥澤健太郎 (北陸先端大)
A4-8 「反義の対立軸を用いたシソーラスの構築」
高橋孝典,横山晶一,西原典孝 (山形大)
P6-8 「テキストから獲得可能な因果関係知識の類別およびその自動獲得の試み -接続助詞『ため』を含む文を中心に─」
乾孝司,乾健太郎,松本裕治 (奈良先端大)

(板橋秀一・理事/筑波大学)


■論文賞(2002年,第9巻)について■

2002年に出版した自然言語処理9巻1号から5号に掲載した論文から以下の手続 きで論文賞候補論文を選定し,理事会の承認によって決定した.

1次選定では,2003/1/10に編集委員会委員を中心にした論文賞選定委員を決 め,第1回の選考委員会を開き選考方法を確認した.上記各号に掲載された論 文のうち査読点数が4点以上の論文を2名の選考委員が読み10点法で採点した.

2次選定では,2003/4/11の第2回選考委員会でこの結果を見て議論した結果, 上位4件を第1次候補論文として選んだ.第1次候補論文を選考委員全員が読み 選考委員ごとに1論文を選び投票した.この結果第1位の得票を得た下記の論文 を選定し理事会へ推薦した.理事会では,論文賞選考委員会から推薦された下 記の論文を承認し論文賞の授与を決定した.

著者:鶴岡慶雅,近山隆
巻号:Vol.9No.3
題名:ベイズ統計の手法を利用した決定リストのルール信頼度推定法

(石崎俊・編集委員長/慶応大学)


■本の紹介■

認知科学の分野でご活躍の今井むつみさん(慶應大学)と野島久雄さん(NTT マイクロシステムインテグレーション研究所)が認知心理学の立場から人の学 習に関する入門書をお書きになりました.言語処理学会会員の皆様にも関心を 持たれる方が多いと思いますので,この場をお借りしてご紹介させていただき ます.

乾 健太郎 (奈良先端科学技術大学院大学)

『人が学ぶということ ― 認知学習論からの視点』今井むつみ・野島久雄著
北樹出版,2003年4月,ISBN 4-89384-904-2
http://www.coglearning.com/

「学習」という語が言語処理の論文に頻繁に現れるようになってすでに久しい. 多くは機械による学習の意味だが,人の言語学習に関心を持つ研究者も少なく ないだろう.そうでなくても学習は誰にとっても生涯にわたって重大な関心事 である.身近な問題なだけに,何となく分かったような気でいて実は誤解して いることもあるかもしれない.

本書は,認知心理学の立場から人の学びについて広範な話題を取り上げ,豊富 な研究例を紹介する.

  • 赤ちゃんは何を知っていて,どのようにして学ぶのか?
  • 子どもはどのようにして単語の意味を推論しているのか?
  • 第二言語の学習は母語の学習とどこが違い,なぜ大人にとって難しいのか?
  • 子どもが学校の授業でつまずき,学習に対して意欲を失うのはなぜなのか?
  • 熟達とは,技を極めるとはどういうことか?
  • コンピュータの学習と人の学習はどこがどのように違うのか?
こうした問題に認知心理学がどのような手段でせまり,どこまで解明してきた かを解説するとともに,そこからより良い学習,より良い教育のための方法論 を展開する.能と将棋,各界で活躍中のプロによる対談やさまざまなコラム記 事をはさむなど,読者を飽きさせない工夫もほどこされている.

とくに印象に残ったのは,何と言っても,著者の歯切れの良い教育論だ.たと えば,英語教育については,「初等教育で英語を導入する前にまず母語で言語 の様々な側面に対する感性を高め,言語に興味を持たせるような国語教育を充 実するべき」,「大人に対して『子どもが母語を覚えるのと同じように』第二 言語を教えようとするメソッドはナンセンス」と喝破する.昨今の「ゆとり教 育」に対する視線も鋭い.「教科内容を一律に削減しても何も得るものはない. 高い学習ポテンシャルを持つ子どもが学校でつまずくのは理由があるのであっ て,それを根本的に解決せず,ただ教える内容を減らせばよいというやり方は あまりに子どもの学習能力を過小評価しており,子どもに対して失礼である」 というくだりには爽快感さえ覚える.これらがいずれも認知科学的根拠に立脚 した論であるところに意味がある.学習の仕組みの研究成果と学習・教育の方 法論を結びつけて論じること,それが本書の「認知学習論」だ.

本書は,ウェブ上にサポートサイト (http://www.coglearning.com/) を構築 し,書籍には載せにくい豊富なコンテンツや最新情報を順次提供するというこ とも試みている.まだ一部に未完成のページも見られるが,今後の発展が楽し みだ.惜しむらくは参考文献リストの扱いである.本書は数多くの参考文献を 引いているが,書籍の中には著者と発行年の記述があるだけで,タイトルや出 展の情報が載っていない.ページ数を節減するためと取り扱いの便のため,完 全版はサポートサイトからダウンロードできるようにしたとのことだが,入門 書とはいえ不便を感じる読者もいるのではないだろうか.

さいごに,言語処理研究者にとって興味深い話題は,やはり機械の学習と人の 学習の違い,そしてその溝を埋めるための手がかりだろう.本書では「機械の 学習と人間の学習:人間の知性をコンピュータの知から考える」と題する章で この問題を論じている.乳幼児や子どもは知識と学習バイアスのブートストラッ プによって学習を進める.言語処理の論文に見られるブートストラップによる 教師なし学習はそうした人間の学習機構を極端に単純化したものに過ぎない. 言語処理あるいは人工知能の文脈で日ごろ「学習」という技術用語をいかに狭 い意味で使っているかを改めて自覚させられる.言語処理研究者が人の学習か ら学べることはまだまだありそうだ.


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