---------------------------------------------------------------------- 言語処理学会ニュースレター Vol. 7 No. 1 2000 年 4 月 20 日 言語処理学会 The Association for Natural Language Processing (http://www.crl.go.jp/nlp) 言語処理学会事務局: 〒152-8552 東京都目黒区大岡山 2-12-1 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 計算工学専攻 田中研究室内 tel: 03-5734-3046, fax: 03-5734-2915 http://www.crl.go.jp/nlp 内容: □ 故 中野 洋 理事追悼文 □ 2000-2003年度評議員選挙報告 □ 言語処理学会 第6回 年次大会(NLP2000)開催報告 ---------------------------------------------------------------------- ・2000年の第6回通常総会を6月13日(火)午後4時から東京大学山上会館で予定 しております. 多くの方の参加をお待ちしております. ご案内は追ってお送 り致します. ---------------------------------------------------------------------- 中野 洋氏の急逝を悼む 熊谷康雄 (国立国語研究所) 本学会会員、理事であり、国立国語研究所日本語教育センター長であった中野洋氏 が昨年12月21日に腹部の癌のために亡くなられました。55才でした。昨年 5月に入 院し、6月より治療のための入退院を繰り返しながらも、職場にも復帰し、しばらく はこのまま過ごせるのではないかと、ご本人もご家族も思っていらした中、病状が急 に悪化し、12月に亡くなられました。多くの仕事をこなしつつ、これからの仕事のプ ランを多く持っていた中での急逝でした。なお、中野氏は逝去当日に、勲四等旭日小 綬章(従四位)を受けられました。 中野さん(以下、中野さんと書かせていただきます)がなさったお仕事、なさろう としていたお仕事をきちんと振り返り、受け継いでいくことは、これからの課題とし ていきたいと思っておりますが、同じ職場で働き、身近に先輩としての中野さんを見 ていた後進のひとりとして、この追悼の文を書かせていただきたく存じます。中野さ んの本筋の仕事を一緒にした方々に適任者は何人もいらっしゃると思いますが、求め に応じて、ここに追悼の文章を書かせていただきます。 中野さんは、『自然言語処理』第4巻第2号(1997.4)の巻頭言「日本語学と日本 語情報処理」の中で、言語研究者と情報処理研究者との関係に触れ、その中で「結局 は、互いにそれぞれの研究成果を利用するための努力が必要だということである」と 書いていました。そして、ご自身、様々な仕事の中で、そのような努力を続けてこら れたと思います。この巻頭言の中で、中野さん自身、長年にわたってその増補作業に 力を尽くしてこられた『分類語彙表』が言語処理の分野で利用されていることにふれ 、この『分類語彙表』が、工夫してでも、あるいはこれを参考にしてあらたなシソー ラスを作ってでも、この分野に貢献できれば、うれしいことであるし、このような日 本語学と日本語情報処理との関係が多くなれば、言語処理学会の学界への寄与が多く なるであろうと結んでおられました。中野さんは、中野さんらしいやり方で、このこ とに力をつくしてこられたと思います。また、それは、中野さんの研究への姿勢と人 柄とが一体となって実現されてきたことのように思います。 関西圏の滋賀出身の中野さんは、よく仕事について「結果を出してなんぼ」という 表現を使っていました。また、入院中も、若い医師に向かって、論文を書きなよ、論 文を書かなくてはだめだよと言っていらしたと奥様から伺いました。結果を出してい くということを強く意識していらっしゃいました。データをあれこれ整備したり、い じったりしているとき、ある工学系の研究者の方が、中野さん、そんなこと誰か(ア ルバイタとか)にやらせればいいじゃないのと言ったとき、「自分でやりたいんだよ 」と答えたとおっしゃっていました。入院なさってからも、自らの手でデータをいじ るということを続けていらっしゃいました。研究のアイデアを話したりしているとき 、「おもしろいじゃないか」と興味を示し、研究をサポートする発言をよくしていま した。新しいことを始めるから「いっしょにやろう」と若い人を誘っていました。筆 者が国立国語研究所に入ったころ、君たちは「独立研究官」なんだから、という話を 聞かされました。研究上のことでは、職階に関係なく、独立して考え、意見をたたか わせる、そういう、研究所における研究者同志の関係をそう表現していたように思い ます。責任感の強い方で、入院してからも、ご自分が責任のある会議などに出席する ために、奥様に付き添われながら、研究所に無理をしてお出でになることがいくども ありました。 国立国語研究所における中野さんのお仕事は、最後の報告書となった『テレビ用語 の語彙調査』にいたるまで、語彙調査を中心として、多くの計量的研究があります。 『計量国語学』22巻4号には土屋信一氏が「中野 洋氏の逝去を悼む」と題する追 悼の文をお書きになっており、その中で、中野さんの業績(の一部)のリストを作成 していらっしゃいます。 また、計量的研究だけでなく、言語処理データ集として、計量調査のデータを1980 年代には、用例カードをマイクロフィッシュで、1990年代に入っては、語彙表をフロ ッピーディスクでといった様に、その当時の利用できる媒体を使って、広く公開する 仕事にも関わっていらっしゃいました。最近は、インターネットや CD-ROMなどの媒 体に積極的な関心を示していらっしゃいました。ここ数年、力を注いで来た「日中作 文コーパス」などでも、手書き原稿の画像ファイルやデータの CD-ROM化などに積極 的でした。国語研究所が5年前に計算機の更新に当り、ネットワークを導入し、イン ターネット接続を開始したときも、当時はまだ残っていたインターネットとワークス テーションへの不信感、不用論に対して、ネットワークとワークステーションの導入 論を強く後押ししてくださったのは中野さんでした。ネットワーク導入後も、インタ ーネットを通した、データや情報の公開に自ら積極的に関与してくださいました。国 語学会と国立国語研究所の共同事業であった、日本語研究文献目録(全約10万件) の事業にしても、科学研究費による事業の後を受けついで、現在のようにインターネ ットによる一般公開にこぎつけるまでに、データの整備や様々な関係の調整などの中 で、自らも手を動かして、成果を世に出すまで、力を尽くしてくださいました。中野 さんの本筋の仕事からははずれますが、中野さんらしい仕事への姿勢を感じさせられ ることでした。 中野さんは、卓球の名手でした。卓球はラケットとボールがあればどこででもでき ると、海外に長期滞在されたときも、ラケットを持って出かけられたと聞いています 。国語研究所の卓球部の大黒柱でしたが、初心者に教えることの名人でもありました 。初心者に自信を持たせるようにしながら、ポイントになるところをうまく教えてら っしゃいました。卓球大会などで、初心者と組んだダブルスでは、組んだ相手を成長 させるようなアドバイスをしつつ、試合の中で混乱させないようにリードしながら、 初心者にも力を発揮させるような、とてもうまい試合をなさっていました。 中野さんとは、海外で2度、一緒に行動したことがあります。最初は、イギリス はマンチェスターに在外研究でご家族と一緒に滞在中に、2度目は、中国で開かれた 国際会議のために、北京と山東とで。海外での中野さんは、国内にいるときの仕事上の 煩わしさから解放されているせいか、普段、職場にいるときよりも、とても快活で、 楽しそうにうつりました。また、いつもより発言がはっきりしていたように感じたも のでした。また、奥様が「ひとなつっこい」とおっしゃっていらした中野さんの性格 のせいか、海外にも多くの友人を作られました。中野さんがここ数年、力を入れてい た「日中作文コーパス」の仕事は、「アジア諸言語との対訳作文コーパス」に発展す る段階にありました。アジアを視野に入れて、これまでの研究の蓄積をベースに新し い展開をはかろうとなさっていました 中野さんは、いい意味での国語研究所らしい伝統を受け継いでいた方でした。言語 処理学会にあっても、研究の発展のために努力を惜しまれなかったと思います。ご自 分の仕事の新しい展開を求めつつ、私たち後進に何を託そうとしていたのか、最後に 中野さんの口から直接にお聞きすることはできませんでしたが、残されたものを充分 に受け止めた上で、後進のものとして、心して仕事をしなければと存じております。 最後に、中野さんのなさったお仕事に思いをいたしつつ、ご冥福を心よりお祈り申し あげます。 ---------------------------------------------------------------------- ・2000-2003年度評議員選挙報告 4月4日に2000-2003年度評議員選挙が行われました. 開票結果は以下の通りです. 選挙権者数 583 投票数 238 投票率 41% その結果, 2000-2003年度の新任評議員に以下の方々が選出されました. ----------------------------------------------------------------- 氏名 所属 氏名 所属 ----------------------------------------------------------------- 荒木 健治 北大 宇津呂 武仁 奈良先端大 荻野 綱男 都立大 柏野 和佳子 国立国語研 片桐 恭弘 ATR 河原 達也 京大 木下 聡 東芝 金水 敏 阪大 白井 清昭 東工大 白井 賢一郎 中京大 白井 諭 ATR 田中 久美子 ETL 東条 敏 北陸先端大 仁科 喜久子 東工大 西野 文人 富士通 丹羽 芳樹 日立 八木沢 津義 キヤノン 矢田部 修一 東大 山本 秀樹 沖電気 余田 直之 三洋電機 ----------------------------------------------------------------- 計20名 (50音順, 敬称略) なお, 留任の評議員(1998--2001年度)は以下の方々です. ----------------------------------------------------------------- 氏名 所属 氏名 所属 ----------------------------------------------------------------- 石川 徹也 図情大 江原 暉将 NHK 奥村 明俊 NEC 亀田 雅之 リコー 神門 典子 学情 北 研二 徳島大 清野 正樹 松下 郡司 隆男 神戸松蔭女子学院大 斎藤 博昭 慶大 佐藤 滋 東北大 島津 明 北陸先端大 鈴木 克志 三菱電機 武田 浩一 日本IBM 冨浦 洋一 九大 中澤 恒子 東大 中村 順一 京大 松本 裕治 奈良先端大 宮崎 正弘 新潟大 柳田 益造 同志社大 ----------------------------------------------------------------- 計19名 (50音順, 敬称略) ---------------------------------------------------------------------- ・言語処理学会第6回年次大会(NLP2000)開催報告 第6回年次大会の実行委員会からの報告 島津 明 (第6回年次大会実行委員長) これまでの大会の会場は東京,京都,福岡といった大都市でしたが,今回は 金沢市の郊外にある北陸先端科学技術大学院大学でした.このために,今回, 特に取り組んだことがらを主に述べたいと思います. 金沢と会場との間の交通事情からバスサービスが必要と考え,石川県および 北陸先端大に資金援助を申請しました.結果として,北陸先端大から20万4 千円をいただくことができ,バス会社への支払に充てることができました. ただ,補助が十分ではなかったために,バス利用者からは1便につき500円を いただきました.ただし,これは市内と大学とを結ぶバス路線の運賃の3.5 割引きになっています.結果として,バス運航の収支はトントンでした. バスサービスに対する出費を適切なものにするために,金沢市内と会場とを 結ぶバスの本数,大きさ,運航時間について,実行委員会では議論を重ねま した.例えば,バスサービスの時間は,各日の開始前と終了後にすることに しました.開催者側としては,発表時間中にバスを運航することは,遅刻や 早退を公式に認めることになると考えたためです.参加者には前日に金沢に 来てもらい大会に参加してもらうという趣旨です.大会の最終日の終了後は 文字通りの終りのために,小松駅と空港へのバスを運航しました.また,参 加者へは,ニュースレターにより交通事情について理解を深めてもらうこと に努めました.発車時間,発着場所,経路についても,バス会社と適宜連絡 をとって進めました.大会3日目には雪が降ったため,安全を考慮し,バス 経路の一部を有料の橋にする変更をしてもらいました. 石川県に助成を申請したことから,県における11年度のイベントとして言語 処理学会大会が案内され,これを見たホテルや旅行業者からの打診がありま した.旅行業者には,WWWのホームページを通して,ホテルの案内,予約, 交通手段の案内,予約のサービスをしてもらいました.ホテル代,運賃は割 引価格となっています. 大会中の昼食も考慮しなければならない点でした.大学の食堂が主な昼食場 所のために,十分に収容しきれないことを考え,弁当の手配を旅行業者に依 頼しました.弁当は大学の先生が推薦するお弁当屋さんのものでした.細か いことですが,弁当の手渡し場所・時間,食事場所,ゴミの始末なども神経 を使うところでした. 懇親会はおかげさまで従来にない記録的な参加者数でした.これも場所柄の おかげだと思われますが,担当者にとっては,料理を仕出し屋に頼むことか ら,参加者数の見積りが問題でありました.結果としては,特に過不足もな く行うことができました. 言うまでもないことですが,どの年次大会でも会場の担当者は大変です.事 前準備,会場・受け付け・案内板などの設営,アルバイトの学生の指導,突 発的な事態への対処などなど,地元でありながら満足に発表も聞けません. 今回は,会場と会場の間が少し離れていましたが,大学の大きな講義室を利 用した結果でありました.招待講演は大学の前にある石川県の施設を利用す る予定でしたが,雪のために直前で会場を変更いたしました.○○の法則で はありませんが,当事者が心配していた雪が正に降りました.余談ですが, 大学から30分の距離にある小松空港はその昔に陸軍が飛行場に選んだ場所だ けのことはあって,羽田空港が雪で閉鎖されることがあっても,雪のために 閉鎖されることはほとんどありません. 以上に述べましたように,実行委員会は大小の打合せを重ね,学会事務セン ター,大学事務の方々の協力のもとに,無事,大会を終えることができまし た.最後に,大会を盛り上げていただいた参加者の皆様,本大会の円滑な運 営に尽力していただいた関係各位に感謝いたします.次回,東京大学での年 次大会が実り多いものであることを期待しています. ---------------------------------------------------------------------- 第6回年次大会のプログラム委員会からの報告 井佐原 均 (第6回年次大会プログラム委員長) 第6回言語処理学会年次大会は皆様のご協力により、無事、終了致しました。本 大会の参加者数は257名、チュートリアルは122名、ワークショップ71名 でした。また、懇親会の参加者数は73名でした。北陸先端科学技術大学院大学 での開催ということで、事前申込者数はともかく、当日申込者が少なく、前回よ りは参加者は減りました。ただ、会場が金沢市街から離れていることもあり、各 セッションへの出席率は高く、従来の大会にも増して、非常に盛況であったと思 われます。大会での発表は、講演発表102件、ポスター発表26件の合計12 8件で、これも僅かではありますが、前回よりも少なくなっています。 今回は、従来とは違った試みとして、実行委員長からの報告にもありますように、 シャトルバスサービスを行った他、ネームプレートの形状変更とプログラムの自 動作成支援を行いました。ネームプレートは従来の短冊形では、セーターやワン ピースなどで胸ポケットがない場合に不便があったのを解消するために、名刺大 のカードに安全ピンをつけるという方式に変更しました。プラスチックケースは 費用が係るためにこのような方法をとりましたが、紙の裏に安全ピンを貼るとい う方法では、名札をつけるのがちょっと難しかったかも知れません。また、色も 従来よりは少し明るめの色に変更しました。いかがでしたでしょうか? プログラムの自動作成については、大会でも講演発表の一つとして報告致しまし たが、申し込みのデータを元に発表を自動分類することにより、プログラム作成 を比較的、楽に行うことができました。将来的には参加申し込みをホームページ から行うことにより、プログラム作成を完全に自動化することも可能かも知れま せん。 実は、自分自身が理解していなかったのですが、今回、プログラム作成や予稿集 の作成を通して、参加申し込みの書式を守らなかったり、予稿の送付が遅れる方 の存在が、プログラム委員にいかに大きな負担を強いているかを認識致しました。 今回も比較的著名な研究グループがこのような問題を引き起こしていたことは、 自分自身を含めて、自戒するべきことだと感じました。 今回の大会では、プログラム委員、実行委員、座長をして頂いた方々はもちろん、 多くの方々のご協力を頂きました。ありがとうございました。第7回年次大会は 東京大学での開催を予定しております。新しいプログラム委員会、実行委員会の みなさんをはじめ、学会員の皆様のご協力で、素晴らしい大会になりますように、 宜しくお願い致します。 ==================================== ・学会に関する問い合わせは「学会センター関西」にお願いします。 〒560-0082 豊中市新千里東町1-4-2 千里ライフサイエンスセンタービル14F 学会センター関西 (担当: 山元 理恵) tel: 06-6873-2301 fax: 06-6873-2300 email: o-socie@bcasj.or.jp [ニュースレター担当] 片桐 恭弘 ATR 知能映像通信研究所 〒619-0288 京都府相楽郡精華町光台 2-2-2 Fax: 0774-95-1408 E-mail: katagiri@mic.atr.co.jp ====================================